大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成2年(行ウ)21号 判決

神戸市中央区伊藤町一一九番地

原告

有限会社 ラジトレイディングコーポレイション

右代表者代表取締役

ハンスラジ カルヤンジ カンジ

右訴訟代理人弁護士

八代紀彦

辰野久夫

藤井司

神戸市中央区山中手通二丁目二番二〇号

被告

神戸税務署長 望月明

右指定代理人

関述之

山本弘

田畑和廣

奥光明

寺嶋芳朗

主文

一  被告が有限会社太平洋商会に対して平成元年一一月三〇日付けでした、昭和六一年一〇月一日から昭和六二年九月三〇日までの事業年度の法人税にかかる更正処分のうち、所得金額一〇八〇万三三三八円を超えない部分の取消しを求める訴えを却下する。

二1  被告が有限会社太平洋商会に対して平成元年一一月三〇日付けでした、昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日までの事業年度の法人税にかかる更正処分のうち、所得金額マイナス三五〇五万四五九一円を超える部分を取り消す。

2  被告が有限会社太平洋商会に対して平成元年一一月三〇日付けでした、昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度の法人税にかかる更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、取得金額一一九五万五六六四円を超える部分の取り消す。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対して平成元年一一月三〇日付けでした、昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日までの事業年度の法人税にかかる更正処分を取り消す。

二  被告が有限会社太平洋商会に対して平成元年一一月三〇日付けでした、昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日までの事業年度の法人税にかかる更正処分、昭和六一年一〇月一日から昭和六二年九月三〇日まで及び昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの各事業年度法人税にかかる更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、有限会社太平洋商会(以下「太平洋商会」という。)及び原告(以下両者併せて「原告ら」という。また、単に「原告」ということもある。)が、アフガニスタン民主共和国(以下、「アフガニスタン」あるいは「現地」という。)等に商品を輸出する際に、香港に所在するオーシャン・トレーダース(以下「OT」という。)を中間買主として取引をしたとして、OTへの売買代金額を所得金額として法人税の確定申告をしたのに対し、被告が、原告らに対し、これらの取引はアフガニスタン等の現地買主(以下、単に「現地買主」という。)と直接なされたものであるから、現地買主への売買代金額が所得金額であるとして、右所得金額と申告額との差額(以下「本件差額」という。)を所得金額に算入する更正処分、ないし更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたので、原告が右各処分の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実(明らかに争わない事実を含む。)

1  原告らは、いずれも電気製品、日用雑貨等の輸出を業とする有限会社である。

2  太平洋商会は、昭和六三年一〇月一日、原告と合併したことにより解散し、原告は太平洋商会の一切の権利義務関係を承継した。

3  被告は、原告の法人税の確定申告に対し、平成元年一一月三〇日付けで、昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日までの事業年度(以下、各事業年度について「昭和六一年九月期」等という。)の法人税について、別表一の一〈2〉のとおり、更正処分をした。

4  被告は、太平洋商会の法人税の確定申告に対し、平成元年一一月三〇日付けで、昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日まで(以下、各事業年度について「昭和六一年九月期」等という。)、昭和六二年九月期、昭和六三年九月期の各事業年度の法人税について、昭和六一年九月期については、同表の二1〈2〉のとおり更正処分を昭和六二年九月期及び昭和六三年九月期については、同表の二2及び3の各〈2〉のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした(以下、3、4記載のこれらの処分を「本件処分」という。)。

5  本件処分は、本件各事業年度について、原告がした申告所得金額に売上計上漏れ等を加算し、未納事業税を減算するなどして所得金額を計算したもので、その内容は別表二のとおりである。

6  原告は、平成二年一月三一日、本件処分につき、国税通則法七五条四項一号の規定に基づき、異議申立てをせずに国税不服審判所長に対し審査請求をした。右審査請求の翌日から起算して三月を経過しても裁決はなされなかった。

7  本件処分の対象となった取引(以下「本件取引」という。)は、いずれも原告らが日本で仕入れた商品をアフガニスタン等日本国外に向けて船舶等により輸出してなされたものである。

8  なお、原告と被告との間では、本件訴訟に先立ち、原告の昭和五七年八月三日から昭和五七年九月三〇日まで、昭和五八年九月期、昭和五九年九月期の各事業年度、太平洋商会の昭和五六年九月期、昭和五七年九月期、昭和五八年九月期、昭和五九年九月期の各事業年度に対する更正処分及び重加算税賦課決定処分の適否が争われた(第一審・神戸地裁昭和六二年(行ウ)一九号法人税更正処分取消請求事件、平成八年一一月二〇日判決。第二審・大阪高裁平成八年(行コ)第五七号法人税更正処分取消請求控訴事件、平成一〇年四月一四日判決。以下「先行事件」という。)。

三  争点

1  本件取引の買主は現地買主かOTか。

2  本件取引の売買代金額はいくらか。

3  本件差額が損金として課税対象外となるか。

四  争点等に関する当事者の主張

1  争点1について

(被告の主張)

原告は、当時の香港の課税事情を背景に、自らの利益を軽減することを目的に、売上の一部をOTに留保しようとし、そのため、原告は現地買主と売買契約を締結したのちに、OTを中間買主として介在させる形式を作出したものである。つまり、OTは、中間買主ではなく、単に原告が課税逃れをするために利用していたものである。

(一) 先行事件との関連について

(1) 先行事件は、本件において中間買主として介在していたか否かが争われているOTをパシフィック・トレーダース(以下「PT」という。)に置き換えただけのものであり、実質的には本件となんら変わるところがない。先行事件の判決では、PTは中間買主ではなく、原告と現地買主との間の直接取引であると認定されており、本件においても、原告がOT(先行事件におけるPT)を利用して課税の軽減を図っていたことに変わりはない。

(2) 原告は、本件と先行事件とで差異がある旨主張するが、〈1〉PTとOTは、ともに香港において原告代表者の弟であるマヌ・K・ラジが経営する企業であること、〈2〉OTとPTは組織や営業内容について違いがないことから、OTとPTが実質的に同一であることは明らかである。

(二) OT介入の必要性について

原告は、現地買主の代金支払能力に不安が感じられる場合には、現地買主と直接取引せず、OTが原告と現地買主との間に中間買主として介入することになる旨主張するが、以下のとおり、OT介入の必要性はない。

(1) 本件取引の中には、電信為替又は電信送金(テレグラフィック・トランスファー)によって、船積み前に売買代金全額が送金されるとの内容の取引も存在するが、電信為替は、貿易取引で為替を組むときに、買主が自国の銀行に為替を組んでもらい、当該銀行が為替を組んだことを売主の銀行に電信で通知して、売主が売主の国に銀行から現金を受領するという送金方法である。このような送金方法によれば、売主である原告は、船積み前に売買代金を安全確実に全額入手できることになり、そもそも現地買主が支払不安な場合にOTが介入する余地はない。

(2) アフガニスタンの現地買主の支払能力不安の理由として同国が政治経済的に不安定な国であるとの事情のみでは、個々の現地買主の代金支払能力に不安が認められる理由とはならない。また、原告は、真に現地買主の支払能力に不安が生じ、OTを介入させた状況について、個別具体的な主張をしない。

(3) 本件取引の中にはアフガニスタン以外の国に対し輸出している取引も存するのであるから、本件取引におけるOT介入の理由を合理的に説明することはできない。

(三) OTの実体について

事業者(会社あるいは個人。以下、併せて「会社等」という。)が作成する会計帳簿は、事業者が経営する会社等の経営状況を把握・管理するために作成されるものであり、そのためには取引の状況や商品の動きなどの基本事項については当然記帳されるべきものである。

本件においては、OTの帳簿は書証として提出されておらず、OTの帳簿の内容も、先行事件の判決で認定された、事業者が当然把握・管理していてしかるべき事項が欠落している記帳となっているPTの帳簿とさほど差異がないところもあるというのであるから、PT同様OTが原告から独立した営業実体を有するかは、強く疑われるところである。

(四) インボイスヘの手書きの書き込みについて

単価の欄に手書きで書き込みがされているインボイス(以下「送り状」という。)があるが、右手書きで書き込みがされた単価に輸出数量を乗じたものが被告認定の売上金額(売買契約書に記載された金額及び海上保険金額を一・一で除した金額)と一致する。

すなわち、右書き込みは原告が現地買主との間で締結した売買契約に基づく正当な売上単価を記載したものに他ならず、原告は、現地買主との間で売買契約を締結したのちに、右売買契約に基づく正当な売上金額を圧縮し、その圧縮した金額をもって送り状を作成していたものである

(原告の主張)

(一) 本件取引の概要

原告は、当時、日本国内の各種商品を主としてアフガニスタンに輸出していたものであるが、その取引の概要は以下のとおりである。

(1) アフガニスタンの代理店であるアマナットから商品の引き合いがあると、原告は当該商品のカタロクあるいは見本等を送るとともに価格を通知することによって交渉を開始する。その過程で、原告は必要に応じ、先方の希望商品について、品種、販売価格及び販売数量等を知らせるための見積書であるプロフォーマインボイスを発行し(発行しないこともある)、交渉の結果、当事者間において、商品の代金と数量等が合意される。

この場合、アフガニスタンにおける買受希望者(現地買主)がその代金支払能力において不安がなく、またその支払時期における同国の国内事情等を勘案しても、代金の支払いが確実になされる場合には、当該商品について原告と現地買主との間で直接に売買契約が成立することになり、現地買主は信用状を開設するなどして代金を原告に支払い、原告は銀行経由または直接的に現地買主に対して送り状を送付し、売買契約はこの送り状に表示された金額によって成立することになる。なお、この取引においては、原告はアマナットに対して、直接、代理店手数料を支払う。

(2) しかし、アフガニスタンは法制度が整備されておらず、政治経済事情が不安であるのみならず、銀行その他の金融機関の信用性にも疑問があり、同国の国内事情は極めて不安定である。したがって、現地買主の代金支払能力に不安が感じられる場合には、原告は現地買主とは直接に取引しないこととし、アマナット又は原告の希望により、OTが原告と現地買主との間に中間買主として介入することになる。すなわち、原告は当該商品をOTに売り、OTがアフガニスタンにおける現地買主に転売する方法をとることになる。

この場合には、OTが原告に対して、現地買主の代金支払の有無とは無関係に当該代金を支払い、仮に将来、現地買主が代金の全部又は一部の支払を怠ったとしても、その危険はすべてOTが負担し、原告は一切その危険を負担しない。したがって、原告がOTに売り渡す当該商品の価格はアフガニスタンにおける現地買主の最終買受金額より下回るのが通常であり、そのときの現地買主の資金状況やアフガニスタンにおける政治・経済情勢、アマナット、アフガニスタン商工会議所に対する手数料その他諸般の事情を考慮し、OTのリスクを予想して、決定されることになる。この場合には、原告と中間買主であるOTとの間で合意された売買代金額について、これを明記した送り状が作成され、原告から、OTに対して送付されることになる。

原告とOTの間では、この送り状に記載された金額によって、売買契約が締結され、原告は当該代金を受領し、商品を出荷しているものである。なお、この取引においては、OTがアマナットに対してその手数料を支払うことなる。

(3) なお、原告が売買契約による商品を出荷するにあたって、海上保険契約が締結されるが、この場合、商品はアフガニスタンに直送されるので、原告は、商品の仕向地であるアフガニスタンの現地買主の買受金額を基準として、国際慣行によりその一〇パーセント増しを保険金額とする保険契約を締結している。海上保険の趣旨ないし目的は商品の買主がその輸入国において引渡しをうけるまでに商品が滅失または毀損した場合における買主の損害の填補であるから、本件のように三国間貿易においては、アフガニスタンにおける現地買主の買受金額を基準にするのがむしろ自然といえる。

(二) OT介入の合理性

(1) 原告は、大手商社であれば、カントリーリスクその他の点から取引に慎重になるアフガニスタンの市場を対象にビジネスを行ってきたのであるが、そこには当然工夫、ノウハウがある。すなわち、アフガニスタンの買主との直接取引は既述のとおりリスクが極めて大きい。そこで、原告はOTを中間買主とすることにより、代金はOTよりの前払金で確保し、安心してアフガニスタンの市場をビジネスの対象とすることができたのである。

(2) 一方、OTのように中間買主として口銭をとるというのは商社としては一般的なビジネスであるが、最終買主に信用がなくリスクが大きければビジネスとしては成り立たず、それを成り立たせようとするならば口銭を高くせざるを得ない。したがって、アフガニスタンの買主が相手であれば、一般的に売掛金回収不能のリスクが高くなるから、誰もが中間買主として利益を得ることができるわけではない。アフガニスタンの国情その他を熟知し、売掛金回収にノウハウを有するOTであってこそビジネスとして成り立つし、その口銭を約一〇パーセント(しかもこの中にアマナット及びアフガニスタン商工会議所に対する手数料も含む)に押さえ、売主も満足させることができるのである。

(3) このように見た場合、原告のOTを介入させるビジネスの仕方は極めて合理的な経済行動であり、OTにとっても同様である。

(三) OTの実体について

(1) 取引関係にある二当事者の代表者が兄弟の関係にあることから、短絡的に、他の会社が一方の会社から独立して存在しないなどと言えるはずはない。

(2) 帳簿が厳格なものでなく、正確性にやや欠けるところがあるとしても、それが必ずしも信用できないということには直結しない。

OTは、香港で税務申告しているが、その帳簿について言えば、PTとさほど差異がないところもある。しかし、香港の税務申告においては何ら支障もないのであって、日本における基準で全て判断することは誤りである。

(3) マヌ・K・ラジは原告とのみ取引をしているわけではなく、韓国、台湾、シンガポールとも取引を行っており、中間買主として介入している。この点からも、原告から独立した営業実体を有することは明白である。

2  争点2について

(被告の主張)

(一) CIF(運賃・保険料込条件)での輸出取引に際して付保される海上保険金額は、売買代金として定められた金額に一・一を乗じた金額とするのが国際慣行であり、また、本件取引においても原告と現地買主間の売買契約書記載の売買代金額と海上保険金額を一・一で除した金額が一致していることからするならば、本件輸出取引に係る海上保険金額を一・一で除した金額が本件売買契約金額であり、かつ売上として計上すべき金額である。

(二) なお、売買契約書及び保険料請求書のいずれもが書証として提出されていない取引については、送り状に手書きで書き込まれた単価に輸出数量を乗じた金額が本件売買契約金額であり、かつ売上として計上されるべき金額である。

(原告の主張)

争点1についての(原告の主張)のとおり、原告のOTに対する各売買契約に基づく売上金額は、全て送り状に表示され、且つ総勘定元帳の売上勘定に記帳された金額そのものである。原告が受領するのは送り状による売買代金だけであって、保険金額から逆算された金額との差額は、いかなる意味においても原告の所得とはなり得ないものである。

3  争点3について

(被告に主張)

OTがアフガニスタンにおける代理店等に対し手数料を払っていたこと及び自らの危険において現地買主の買受代金を原告に立替払いしていたこと等については、原告から具体的な主張及び立証はなされていない。

かえって、本件取引の中にはアフガニスタン以外の国に対して輸出している取引も存するが、これらアフガニスタン以外の国の業者との取引について、アフガニスタンにおける代理店であるアマネット及びアフガニスタン商工会議所が介入すべき理由はないのであって、原告の主張は合理性を欠く。

したがって、OTにおいて留保された金員(本件差額)を損金に算入すべき経費と解することもできない。

(原告の主張)

OTは、アフガニスタンにおける代理店であるアマネット、アフガニスタン商工会議所に対し手数料を支払うほか、自らの危険において現地買主の買受代金を原告に立替払いしており、現地買主の不払いあるいは支払遅延のリスクを負っているものであり、本件差額は原告がOTの右関与に対する手数料として支出したものということになる。そして、右関与は必要であり、その対価も相当であるから、損金に算入すべき経費としての性格を有しており、課税の対象とはならない。

第三当裁判所の判断

一  申告額を超えない部分について

納税者が確定申告書を提出すれば、原則として、それによって納税義務が確定するのであり、例外的に確定申告書の記載の無効を主張しうる場合以外は、更正の請求という手続によってのみその金額の減額変更を求めうるにすぎない。そうすると、右手続を経ることなく更正処分のうち申告額を超えない部分の取消しを求めることは、納税者の自認する金額の範囲を超えて超えて更正処分の取消しを求めることになるから、訴えの利益を欠く不適法な訴えとして許されないというべきである。

したがって、本件訴えは、太平洋商会の昭和六二年九月期の更正処分について太平洋商会の申告した所得金額一〇八〇万三三三八円を超えない部分についてまでその取消しを求めるものであるから、右部分の取消請求は、訴えの利益を欠き不適法である。

二  争点1について

1  先行事件との関連について

証拠(乙一、二七の1・2、証人サンジェイ・ハンスラジ・ラジポパット(以下「サンジェイ」という。)の証言)及び弁論の全趣旨によれば、先行事件に係る取引(以下「前回取引」という。)においては、PTが中間買主として介在していたかが争われていたが、先行事件の第一審及び第二審の各判決は、前回取引の態様及びこれに対する原告らやPTの関与の状況、見積送り状の性質、原告らの取引相手に関する認識、PTの営業実体等を総合して考慮し、前回取引の買主はPTではなく現地買主である旨認定し、右判決は確定したこと、PTとOTは、ともに香港において原告代表者の弟であるマヌ・K・ラジが経営しており、事務所も同一場所にあり、経営内容もさしたる違いがないこと、前回取引においてPTが果たしていた役割と本件取引においてOTが果たしていた役割は同様のものであることが認められる。

2  売買契約書、保険料請求書、送り状について

(一) 証拠(甲A一ないし五の各2、六の2の1・2、七ないし九の各2、乙A一及び二の各1ないし4、三及び四の各1・2、五の1ないし4、六の各1・2、七の1ないし4、八の1・2、乙B二の1・2、二五・二六・二八・三八・三九・四〇の各1ないし4、四一及び四二の各1・2、四三の1ないし6、四四の1ないし8、四五の1ないし4、四六の1ないし8、五二・五八・五九の各1ないし4、乙一、一九1ないし3、二一、二七の1)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 日本における輸出業者の多くが輸出取引において利用する海上保険は、その保険金額を売買代金の一一〇パーセントとするものである。

(2)ア 本件取引の中には、売主を原告、買主を(OTではなく)現地買主とする売買契約書が存在するものが多数ある。また、右各売買契約書に記載された売買代金額は、右各取引に対応する保険料請求書に記載された保険金額を一・一で除した金額とほぼ一致する。

イ 本件取引の中には、売主を原告、買主をOTとする売買契約書も存在するが、右各売買契約書に記載された売買代金額は、右各取引に対応する保険料請求書に記載された保険金額を一・一で除した金額とほぼ一致するものの、右各取引についての売上計上額は右各売買代金額ではなく、その九割ないし九割五分とされている。

ウ 前回取引の中には、海上保険金額を一・一で除した金額と売買契約書に記載された売買代金額とが一致しているものが多くあった。

(3) 本件取引の中には、売上計上額は同一の金額が記載された送り状があるものがある。しかし、証拠として提出された送り状の中には、単価の欄に手書きで書き込みがされたものもあり、右手書きで書き込みされた単価に輸出数量を乗じた金額は、保険料請求書記載の保険金額を一・一で除した金額ないしは売買契約書記載の売買代金額とほぼ一致する(ただし、うち一件については保険料請求書も売買契約書も提出されていない。)。なお、先行事件の判決において、送り状記載の金額が前回取引の売買代金額である旨の原告の主張は認められなかった。

(二) また、原告は、保険金額につき、本件のような三国間貿易では現地買主の買受額を基準にするのが自然である旨主張するが、右主張事実を前提にしても、中間買主が保険料の負担を全く負わないとは考え難く、売主と中間買主との間では保険料負担についての合意がなされるものと推認することができるところ、本件において原告とOTとの間に右のような合意があった旨の主張はなく、右合意の存在を認めるに足る証拠もない。

3  OT介入の必要性について

(一) 具体的な理由の主張立証のないこと

証拠(乙一、二七の1、サンジェイの証言)及び弁論の全趣旨によれば、本件で問題となっている事業年度において、原告らがOTを介入させずに現地買主と直接行った取引が多数あり、また、当初はOTを介さずに現地買主と直接売買交渉をしていたことが認められる。

したがって、OTが本件取引の買主であるというためには、原告らが現地買主の代金支払能力の有無を、いつ、どのように判断し、OTを介入させることにしたのかについて、具体的な理由が主張立証されてしかるべきであるのに、原告は、アフガニスタンが政治的、経済的に不安定な国であるという一般的象徴的事由を挙げるのみであり、このことが直ちにこの具体的な理由に当たるとはいえず、他に具体的な理由を認めるに足りる証拠もない。

(二) 代金不払いの危険が極めて少ない場合にもOTが介入していること

(1) 証拠(乙二四、サンジェイの証言)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

電信為替または電信送金(テレグラフィック・トランスファー)は、貿易取引で為替を組むときに、買主が自国の銀行に為替を組んでもらい、当該銀行が為替を組んだことを売主の銀行に電信で通知して、売主が売主の国の銀行から現金を受領するという送金方法であり、このような送金方法によれば、売主は、船積み前に売買代金を安全確実に全額入手できることになる。また、買主が信用状を開設した場合にも代金の支払いが確保される。

(2) また、証拠(乙A一ないし六の各1・2、乙B二・二六・二八・三八ないし四二・四四ないし四六・五二・五八・五九の各各1・2)によれば、本件取引の中には、全額前払い、電信送金による前払い、全額電信送金、電信送金又は信用状による支払い、電信による信用状又は全額前払いといった内容の取引が多数あることが認められる。

(3) 右のような取引においては、代金不払いの危険は極めて少ないといえるのであるから、このような場合にまでOTが介入する合理的理由を認めることはできない。

4  OTの営業実体について

(一)(1) 証拠(乙一、二の1、二三の1、二七の1、サンジェイの証言)及び弁論の全趣旨によれば、OTの経営者マヌ・K・ラジは、原告の代表取締役ハンスラジ・カルヤンジ・カンジの弟で(なお、太平洋商会の代表取締役はハンスラジ・カルヤンジ・カンジの妻である。)、原告らの役員であるサンジェイ・ハンスラジ・ラジポパットの叔父であることが認められ、原告らとOTが密接な関係にあるものと推認することができる。

(2) 証拠(乙一、二七の1)及び弁論の全趣旨によれば、先行事件において、原告は自らの主張を裏付けるためにPTの帳簿を平成三年五月二〇日に書証として提出したことが認められるが、本件においてはOTの帳簿類は提出されていない。OTの帳簿はPTの帳簿と同じようなものである旨のサンジェイの証言、前記(1)の原告らとOTとの関係からみて原告らが本件取引についてOTの帳簿類の提出を求めればOTはこれに応じるであろうこと、先行事件における前記書証提出時にはすでに本件訴訟でOTが本件取引の買主であるかどうかが問題となっていたことなども併せて考慮すると、OTは本件取引についてOTの帳簿類を作成していなかった疑いが強いといえる。

(3) 以上によれば、OTは、原告らから独立した営業実体を持っていないとの疑いが極めて強い。

(二) 他に、OTが独立した営業主体を有する根拠として原告が主張する事実を肯認すべき証拠はなく、原告の右主張は採用することができない。

5  香港の課税事情について

証拠(乙一、一九の1ないし3、二七の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件取引当時香港が事業所得に対する課税を軽減している地域であり、原告らも本件取引当時その旨認識していたことが認められる。そうすると、本件取引における買主がOTだとすれば、本件差額を香港に所在するOTの利益にすることにより原告らへの課税額を軽減することができるのであるから、前記1ないし4の認定事実を併せて考慮すると、原告らが、本件取引から生じた所得に対する課税額を軽減させるために、OTが本件取引の買主であると主張している疑いが強い。

6  まとめ

以上のことを総合して考慮すると、本件取引の買主は、OTではなく、現地買主であるというべきである。

三  争点2について

1  本件取引の買主がOTではなく現地買主であること、日本における輸出業者の多くが輸出取引において利用する海上保険は、その保険金額を売買代金の一一〇パーセントとするものであること、本件取引に係る海上保険金額を一・一で除した金額と売買契約書に記載された金額とがほぼ一致すること、送り状の単価の欄に手書きで書き込みがされた単価に輸出数量を乗じた金額は、保険料請求書記載の保険金額を一・一で除した金額ないしは売買契約書記載の売買代金額とほぼ一致すること、前回取引においてPTが果たした役割と本件取引においてOTが果たしている役割は同様のものであること、前回取引においても海上保険金額を一・一で除した金額と売買契約書に記載された売買金額とが一致しているものが多かったこと、先行事件において送り状記載の金額が前回取引の売買代金額である旨の原告の主張は認められなかったことは前述のとおりであり、これに、一般的には売買契約の内容を明らかにするものは売買契約書であること、売買代金の決定は単価に数量を乗じることによってなされることが多いことなども考慮すると、本件取引における売買代金額は、〈1〉売買契約書が証拠として提出されている場合は、それに記載された代金額、〈2〉売買契約書が提出されていない場合は、送り状に手書きで書き込みされた単価に輸出数量を乗じた金額、〈3〉売買契約書も単価が手書きで書き込みされた送り状も証拠として提出されていない場合は、保険料請求書に記載された保険金額を一・一で除した金額であると認めるのが相当である。

2  以上の方法により認定した本件取引の売買代金額は、別表三の売買代金額欄記載のとおりであり、売上計上漏れの金額(円)は、次の算出式により同表の〈5〉売上計上漏れ金額欄記載のとおりになる(取引時の一米ドル当たりの円の為替レートが同表の〈4〉欄記載のとおりであることは弁論の全趣旨から認められる。)。ただし、売買代金額及び申告額を円建てで算定した取引については、売買代金額と申告額との差額が売上計上漏れ金額になる。

(算出式){売買代金額(米ドル)-原告主張額(米ドル)}

×(売上計上時の一米ドル当たりの円の為替レート)

3(一)  右に基づき算定した売上計上漏れ金額は、太平洋商会の昭和六一年九月期分を除いて、被告が本件処分で認定した額と一致するか、これを超えている。

(二)  しかし、太平洋商会の昭和六一年九月期については、算定した売上計上漏れ金額七六七万四三八八円は、被告が本件処分で認定した額七六七万五〇七四円を下回っており、これに基いて算定すると、右事業年度の所得金額は、次の算定式からマイナス三五〇五万四五九一円になる。

(算定式)所得金額= 申告所得額+売上計上漏れ金額

=△42,728,979+7,674,388

=△35,054,591

したがって、右事業年度に係る処分について、右金額から算定される所得金額を超える部分について取り消されるべきである。

(三)  また、太平洋商会の昭和六三年九月期の売上計上漏れ金額五一五万五二三六円は本件処分で被告が認定した額を上回っているが、同事業年度の繰越欠損金額の当期控除過大額(太平洋商会の昭和六一年九月期の売上計上漏れ金額と同額)七六七万四三八八円は本件処分で被告が認定した額を下回っている。

結局、昭和六三年九月期の所得金額は、次の算定式から一一九五万五六六四円と算定され、被告が認定した額を下回っている。したがって、右事業年度に係る処分については、右算定された所得金額を超える部分については取り消されるべきである。

(算定式)所得金額=申告所得額+売上計上漏れ金額+繰越欠損金額の当

期控除過大額-未納事業税認容額

=0+5,155,236+7,674,388+873,960

=11,955,664

四  争点3について

原告は、OTが現地代理店やアフガニスタン商工会議所に手数料を支払ったり、売買代金を立替払いしており、本件差額は、その手数料として相当なものであるから、損金に算入されるべきで課税対象にならないと主張する。しかしながら、OTがどの取引に対して、幾らの手数料を支払い、それが正当なものであることについて、具体的に主張立証されていない。原告らは、右証拠として甲五ないし一一、一三及び一四を提出するが、これらの作成日付は、一九八三(昭和五八)年七月二五日ないし一九八五(昭和六〇)年二月一六日となっており、本件で問題となっている事業年度に関する文書ではないから、これをもって原告の主張を裏付ける証拠となしえない。のみならず、証拠(乙A三及び四の各1・2、七の1ないし4、八の1・2、乙B一〇・一二・一三の各1・2、サンジェイの証言)によれば、本件取引の中にはアフガニスタン以外の国に輸出している取引も存することが認められるが、これらのアフガニスタン以外の国の業者との取引について、アフガニスタンの代理店や商工会議所が介入すべき理由はない。

よって、原告の主張は失当であり、採用することができない。

五  まとめ

以上によれば、本件差額は本件取引における売買代金額に含まれるべきものであるから、これを売上計上漏れとして所得金額に含めて課税対象にした本件処分のうち、原告の昭和六一年九月期及び太平商会の昭和六二年九月期の処分は適法である。しかし、太平洋商会の昭和六一年九月期及び昭和六三年九月期に係る各更正について、それぞれ、所得金額マイナス三五〇五万四五九一円、一一九五万五六六四円を超える部分は、太平洋商会の所得を過大に評価したものであるから違法であり、また、昭和六三年九月期に係る加算税の賦課決定のうち右所得金額に対応する部分も違法である。

第四結論

以上のとおりであり、本件請求のうち、太平洋商会の昭和六二年九月期の更正処分について太平洋商会の申告した所得金額一〇八〇万三三三八円を超えない部分の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し、太平洋商会の昭和六一年九月期の処分について所得金額マイナス三五〇五万四五九一円を超える部分及び昭和六三年九月期の処分について所得金額一一九五万五六六四円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹貴)

別表一 本件処分等の概要

一 原告

昭和61年9月期

〈省略〉

二 太平洋商会

1 昭和61年9月期

〈省略〉

2 昭和62年9月期

〈省略〉

3 昭和63年9月期

〈省略〉

別表二

一 原告

昭和61年9月期

〈省略〉

二 太平洋商会

1 昭和61年9月期

〈省略〉

2 昭和62年9月期

〈省略〉

3 昭和63年9月期

〈省略〉

別表三 本件取引一覧表

一 原告

昭和61年9月期

〈省略〉

二 太平洋商会

1 昭和61年9月期

〈省略〉

2 昭和62年9月期

〈省略〉

3 昭和63年9月期

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例